遂にリリースされた『Ondo Dimensions』!  キュレーションを担当したuccelli自らOndo、そしてGorgeへの想いを語る!

音頭は「音楽」そのものであり、「予感」そのものである ~ucceli 『Ondo Dimensions』について語る

 

本記事はGorge Advent Calendar 2015、第一日目の記事です。

http://www.adventar.org/calendars/802

2015年11月にGORGE.INよりリリースされた音頭コンピレーション『Ondo Dimensions』が静かに話題を広めつつある。

「Gorge」という音楽ジャンルの元で先鋭的なトラックを発表し続けてきたブーティストたちが、あえて「音頭」というフレームで各々の音楽を提示したこのコンピレーション・アルバム。

ここで敢えて細かく説明するよりも、この2人の音頭パイオニアのレコメン文を紹介すれば、まず一聴したくなることは間違いないだろう。

“こ、これは……「ゴルジェと音頭の奇跡的邂逅」というキャッチコピーを用意しつつ聴き始めたんだけど、そんな単純なものじゃありませんでした。各民族/各時代で親しまれてきたパーカッション・ミュージックのエキスをギュッと凝縮。なかには新作音頭そのままの楽曲もあるけれど、そこにゴルジュ性を見い出すこともできるだろうし、その反対もアリ。ブエノスアイレスやプノンペンで起きているローカル大衆音楽のアップデートがついにここ日本でも!いやー、ホントびっくりしました。全曲最高。”

大石始(ライター/エディター)

“2015年、クラブ・ミュージックそして、音頭界にとって最大の事件発生!音頭の向こうに山脈が見える。巨大な山脈が…!”

DJフクタケ(ヤバ歌謡)

このアルバムのキュレートを担当したのが、最初期からGORGE.INのコアメンバーとして活動し、また自信のレーベルanan.siでも何かと「物議を醸す」活動を行い続けるGorge界髄一のトリックスター、uccelliだ。

本作では「ucc3lli feat. うちだあやこ」名義で「大涅槃音頭 (Grossa Onda Nirvana)」として流麗なゴルジェ音頭を披露している。

一部では0歳児寝かしつけトラックとして大変有用で、赤ちゃんフロア向けトラックとしての機能性が抜群だという噂もある大名曲だ。

また、キュレーターとしてナレーション、ジングルのプロデュースも担当し、この何とも不可思議な一大音頭絵巻を見事にまとめあげている。

普段はもの静かであまり多くを語りたがらない彼だが、このコンピについてインタビューを要請すると饒舌に熱く語ってくれた。彼の音頭、そしてゴルジェに対する思いを聞いていこう。

uccelli
▲『Gorge Dimension』について、そして「Gorge」について熱く語るuccelli氏近影

「今年3月には今年は”音頭”が来る!という電波を受信した」

– 『Ondo Dimensions』の制作作業お疲れさまでした。早速ですが、このコンピを作るきっかけはどのようなものでしょうか?

uccelli: 実は音頭コンピを作ろうという話は毎年GORGE.INの中で出てきてたんですよ。2013年に出した『New Dance Music of BON』が最初だったんですが。

去年はお盆前に「そろそろ出そう」っていう話が出たけど、よく考えたら今から作っても遅いということに気付いて見送って(笑)今年はようやく出せましたね~。

– 11月という、音頭コンピを出すには時期外れではありますが、この時期になった理由は

uccelli: 今年は早くから準備を進めていたんですよ。そもそも今年の3月に「今年は”音頭”が来る!」という電波を受信しまして・・・今年はきちんと音頭コンピを作ろうとすごくノリ気になって。もともと僕は気候の変化に鈍いんですよね・・・・温度の変化に鈍いというか・・・音頭だけに(笑)。着るものが厚着過ぎたり薄着すぎたりして。そんなこんなで遅くなりました。

– 3月からだとかなり時間がかかりましたね。

uccelli: そうですね、自分が就職したり失職したりという個人的なバタバタもあって実際に制作作業を開始するのが7月くらいになってしまったんですよね・・・。個人的にもちょっとしんどい時期でした。でもその中で、『ニッポン大音頭時代』を執筆した大石始さん、そして『ヤバ歌謡3 –音頭編- 』という音頭ミックスCDをリリースしたDJフクタケさんの活動には凄く刺激を受けましたね。二人が出演されたDommuneの音頭特集を見に行って、「やっぱり音頭だ!」とすごく感化されたことが後押しになりました!! お二人にはレコメンド文章まで書いていただいて、本当に感謝の限りです。

「『Ondo Dimensions』は”曼荼羅”。そしてGorgeは”万葉集”。
長い時間と多く人の手で1つのコンピを作っているイメージです」

– 今回の『Gorge Dimensions』はコンピレーション・アルバムという体裁ですが、前向上があったりジングルがあったり、さらにはYuko Lotusさんによる曲紹介があったりと、通常の「コンピ」という枠組みを超えた、キュレーションの意志が見えるように思います。これは事前に考えていた思っていたものなのでしょうか?

uccelli: 僕はすごく音楽の捉え方がコンセプトが先行し過ぎるところがあって。ジングルを入れることは前もってイメージしていたし、そういうところは自分のコンセプトを実現したい、という思いがありました。でも、コンピの面白いところはそういう自分のコンセプトに基づく編集方針と、実際に出来上がってくる各トラックの関係が絡み合ってどんどん情報量が多くなっていくところで。そしてこれは声を大にして言いたいんですけど、本当に1つ1つの音頭が面白すぎるんですよ。素晴らしい音頭ばかりで(笑)。自分のコンセプトと、その各々のトラックの相互作用で集合的無意識のようなものが徐々にできていく感じで・・・それが本当に作っていて興奮したし、「これがコンピの醍醐味だな~」と改めて思いました。

– 最後に曲紹介があるのもかなり斬新だと思うんですが、これは?

uccelli: これは本当に申し訳ないんですが、リリース1週間前に思いついて、Yuko Lotusさんの声でどうしても欲しくなって無理を言ってお願いしました(笑)。Yukoさんごめんなさい&ありがとう!!!

– 『Ondo Dimensions』のコンセプトとして、リファレンスとしたものはあるのでしょうか?

uccelli: それは明確に実はあって「曼荼羅」です。音の持続=収録時間自体が作るマクロなリズム感を意識してまして・・・。以前anan.siで制作したラッセンコンピは収録曲全部が1分で、これはジグゾーパズルを模してたりするんですよね。

そういう意味では「Gorge」自体も自分のイメージでは万葉集なんですよ。大喜利的というか、長い時間をかけて、多くの人の力で一つの大きなコンピレーション・アルバムをコンパイルし続けているみたいな。そういうコンセプトについてはずっと考え続けていますね(笑)。

「音頭を支えるのは日本語の音韻構造だと思う。
Gorgeはその構造でモダンな音楽が可能か?という挑戦です」

– 音頭を聞き、音頭について考え、今の時代の音頭のコンピを作るという経験をされたわけですが、今改めて「音頭」とはどのようなものだと思いますか?

uccelli: 自分の中で、そもそも「音楽」とは「予感」のようなものだと考えてるんですよね。音楽の世界で起きることは、だいたいその後世の中でも起こってるんですよ。つまり、コール&レスポンス。そして面白いことに「音頭」とは、コール&レスポンスのコールの意味なんですよね。つまり音頭は「音楽」そのものであり、「予感」そのものである・・・というような気がしています(笑)。

– GORGE.INはゴルジェのレーベルなわけでありますが、そこから「音頭コンピ」をリリースすることに対しては?

uccelli: まだ日本にまったくGorgeシーンが無い頃にhanaliがリリースした「Wide&Gorge」というトラックがGorgeが普及する最初のきっかけだったと思うんですが、この曲は音頭だったんですよ。って勝手に僕が言ってるだけですけど(笑)

「ドドンガドン」に代表される音頭のリズムは、日本で育った人間なら誰でも練習なしにパッとできるし、すごくしっくりと耳に馴染むんですよね。Gorgeが日本で爆発的に進化したのもそういうところはあると思う。それを日本人の身体感覚に起因する、という見方もあるんですけど、自分はむしろ「日本語」に起因するんじゃないかと思っていて。日本語の音韻構造が影響しているんじゃないかな、と。西洋人は音楽の情報処理を、脳内の映像的なイメージを扱う部位で処理するけれども、日本人は相当な割合を言語野で処理しているらしいという話を聞いたことがあって、実はそれがすごくGorge、そして音頭にとって重要なファクターなんじゃないか、という気がしています。

– 単なる日本語の歌詞か英語の歌詞か、みたいな話だけではなくて、日本人が日本語で考え喋っていること自体が音楽の構造や聴き方そのものを規定している、と。

uccelli: そう思います。逆になぜそれが議論されてこなかったかは自分には不思議なんですよ。はっぴいえんどvs内田裕也の日本語ロック論争、さらに現在もある日本語ラップにおける韻や発音の論争、ってのはずっと続いてることですけど、これは英語の音韻-リズム構造で作られた洋楽のオケと、日本語の歌をきれいにグルーヴさせるには、という問題で終始しているわけで。作詞と歌唱の技術の問題なんですよね。でもなぜオケの側を変えないのか? 日本語の音韻-リズム構造でもってモダンな音楽を作ることは可能なのか? ということは今まであまり取り組まれてこなかったように僕は感じてます。これに回答を与え、挑戦し続けているのがGorgeだと僕は真剣に信じているんですよ! 志茂田景樹氏+HiBiKi MaMeShiBa氏のゴルラップはこのコンセプトを見事に具現化していると思います。日本のJuke/Footworkがここまで独自の進化を遂げた、ていうのもそういうことが関係してるんではないか・・・とかいろいろ考えていてまだまだ語れるんですがこれについてはこのくらいにしておきます(笑)。

「酒を酒で割ったような”チャンポン・ニューエイジ感覚”
“大涅槃音頭”はそういう感覚を皆の協力によって実現できた」

– では本作に含まれている「ucc3lli feat. うちだあやこ」による「大涅槃音頭 (Grossa Onda Nirvana)」について聞きたいと思います

この曲はAphex Twinの「4」の音頭カバー、とのことで驚きました。

最初に聞いたときにはまったくそことは結びつかなかったんですが、改めて聞いてみると納得できつつも、なぜAphex Twinが大涅槃音頭になったのか、という疑問もあります。このアイディアはどこから生まれたんですか?

uccelli: 実はAphex Twinの「4」のメロディをうちださんに歌わせる、というアイデアは4,5年ぐらい前からあったんですよね。彼女が不知火庵とやっているdodoで歌っているのを聞いて、これがあの曲のメロディとなぜか頭で結びついて・・・。そういう思いもありつつ、ちょうどこのコンピを制作する過程で、全体を眺めたときに要素として大瀧詠一氏の「イエローサブマリン音頭」のようなカバー曲、オンダイズ曲が欲しいな~と思ったんですよね。それでその温めてきたアイディアを思い出して。彼女が別にやっている「coinbird」というバンドで音頭的な曲もあるし、いける! という確信を持って依頼しましたね。

– 歌詞も独特の世界観のものですよね。これもuccelli氏が作詞したんですか?

uccelli: 実は学生時代以来の作詞に挑戦・・・・したんですがサビの歌詞の「アセンション アセンション 神の王国へ〜」の部分を思いついた時点であまりの出来に満足してしまい、他の部分が全く浮かばなかってしまって(笑)。harunosaitenのコボ氏に助けを求めて書いてもらいました。酒を酒で割ったような「チャンポン・ニューエイジ感覚」っていうのが曲全体のコンセプトだったので、コボ氏が歌詞によってそれをグンと前進させてくれて、見事に楽曲に昇華することができて満足しています。コボ氏ありがとう! せっかくなので歌詞をここに掲載させてください!

大涅槃音頭 (作詞: uccelli, コボちゃん)

はぁー はるばる来たぜ
ここが噂の 太西洋の
どー真ん なか アセンション島
カメがいざなう パラレルワールド

(ここからサビまで七五調で音頭っぽく)
アセンションすりゃ すべてが反転
山が谷になる 谷が山になる

地球の裏みりゃ ユーラシアの果て
ドンドン河にゃ ゴルいやつらが
山丹人か? サンタクロースか?
ドンな物でも ドンドンおくれ

ドンな音でも ドンドン踊れ
ドンな音でも ええじゃないかええじゃないか

サビ
アセンション アセンション 神の王国へ
アセンション アセンション そこがニルヴァーナ
アセンション アセンション 五次元宇宙へ
アセンション アセンション それがニルヴァーナ

you gotta go ascension
to the ondo dimension

– トラックとしても涅槃感というか、どこか浮世感のあり、しかもGorgeであるという絶妙なトラックになりましたね。これは最初からこのような意図だったんですか?

uccelli: それに関してもものすごく二転三転しましたね(笑) 和声から最初のバージョンからまったく違って。憂いのあるピアソラ調のコードにうちださんの歌入れをしてもらったんですが、それで聴いてみると歌がカラッとしているのにオケがベタベタしているな、という気になって。そこで改めて悩んで、そうだ! この歌に必要なのはマーティン・デニーだ! という結論になって(笑)

マーティン・デニー風のピアノをつけてみたらすごくフィットして「これだ!」とようやく今の曲になりました。いやー大変でした(笑)。

「日本語の音韻-リズム構造による新しいビート。
自分のソロ・アルバムではそれを追求したい」

– では最後に、uccelli名義のソロ・アルバムの制作が現在進んでいるという情報があります。制作状況はいかがでしょうか

uccelli: 先ほども話したような日本語の音韻-リズム構造による新しいビートというのはまだまだ可能性があるし本当に面白い。今回キュレーションした『Ondo Dimensions』でも本当にそのことを実感できて、ソロ・アルバムでこれをさらに追求したいと思っています。まだ発表できないですが、かなり面白い曲ができています。ぜひいろいろな人に早く聴いていただきたいので、ちょっとフライング気味ですが、2016年初頭にアルバムの予告編的としてEP 『Annunciation』を出そうとしています。ぜひ聴いていただきたい! よろしくお願いします。


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