Gorgeはただ、そこにある 〜DJ Nangaインタビュー

2010/12/21
文:Alex Ondra
訳:On-Sight編集部

例えば、Mebius,Plank& Neumeier『Zero Set』を聞いてみよう。冒頭の「Speed Display」にある、シーケンシャルな電子音とワイルドなキック&ハットのケミカルな融合を拾い上げ、明確に後の「テクノ」へと導線を引くことは、現在を生きる者にとって容易にできるだろう。いわゆる「ルーツ・テクノ」として現在でも評価の高いサウンドである。

しかし「ルーツ・テクノ」とただこれを呼んだときに、多くの情報が捨てられることに気づいた人々も多くいる。今、世界中で驚異的な増殖を続けるGorgeミュージシャンたちもその中に分類される。彼らはここに「タム」によるサウンド構築の火花を見るのである。
しかし彼らはこれを決して「ルーツGorge」とは呼ばない。
「それは単なるGorgeだ」彼らは言う。
「それはずっとそこにあったし、これからもそこにある」。

これはあくまで一例だ。Pink FloydのProgressiveなトラック、This Heatのドープな音響リズム、Pop Groupの奔放過ぎるダブ・ミックス、Hard FloorのアシッドなTR-909サウンド、Timbalandの高速タムブレイク、Shackletonの呪術的なステップビート、例を挙げればキリがない。それぞれの中にGorge的な「タム」が遍在する。
「それはずっとそこにあった」
「ただそれをGorgeって言わなかっただけさ」

Gorgeのオリジネーターとして注目を集めながらも、素性に関しては全く知られていないDJ Nangaのインタビューに奇跡的に成功した。彼は今では有名になった以下のGPL(Gorge Public License)の提唱者でもあり、世界で初めてGorgeを送り出した人物である。

・Use Toms(タムを使うこと)
・Say it “Gorge”(それがGorgeと言うこと)
・Don’t say it “Art”(それがアートだと言わないこと)

このGPLに準拠すれば、それはGorgeと名乗ることができるという。
男性であること、ネパール周辺にすんでいること、卓越したクライマーであること以外、国籍や年齢など情報が不明である彼に、Gorgeという特異な音楽ジャンルの成り立ちについて聞いてみることにした。

DJ Nanga

DJ Nanga

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– あなたがインタビューを受けるのは非常に珍しいことだと思うのですが、今回はなぜ?

「別にインタビュー嫌いってわけじゃないけど、まあ、たまたまさ。雨の日に”何で雨が降るのか”って空に向かって問いかけても答えは返ってこないだろ? そういうものさ」

– 分かりました。では他の質問に移ります。Gorgeの規範として「GPL(Gorge Public Lisence)」を策定したのはなぜですか?

「うーん、それについて話すには、俺がGorgeをやり始めるきっかけから話さなくちゃいけないな。ちょっと長くなっちゃうけどいいかい?
昔っからクライミングバムみたいな生活をやってて世界中をフラフラしてたんだけど、たまにDJもやっててさ、ある日それを知った日本人のクライミング仲間が”使ってないリズム・マシンあるけど居るかい?”って聞いてきたんだよ。
前からトラックメイキングをやりたいって思ってたから、”もちろんさ!”って即答したよ。日本のリズムマシンって言うとROLAND TR-909とかを想像しててワクワクしてさ。いざ受け取ったらZOOMっていうメーカーのヤツで、見た目もダサくて、さらになんとキックのパッドが壊れて鳴らないんだよ(笑)。こんなの使えるか、ってそこからずっと放置してたんだけど。

zoom-rt-234

ZOOM RT-234

そのうちにPCも手に入れてそれで作った曲をDJで使ってたんだけど、何か違ったんだよな。何が違うかは説明が難しいんだけど、ただ誰かのトラックの偽物のガラクタを作ってるような気になって。
ある日、クライミングから帰って疲れまくってるときに、ふと例のZOOMのリズムマシンを引っ張りだしてさ。キック以外の音、タムをできるだけ低音でドコドコ鳴らして、それとハットとかでリズム作って、それをディストーションのエフェクターに突っ込んでみたんだよ。
ワオ! って思わず歓声を上げたね。
これは岩の音だ、岩を叩く水の音だ、岩に支えられた山の音だって。探してたものはずっとここにあったんだ、と。疲れているのに夢中になって眠らずに何時間も録音したものさ。
その中の一部が、『Separate Reality』(Astroman Records/AR-106)に収録した「Catcher In the Gorge」だね」

– それがGorge誕生の瞬間だった、と。

「その言葉は間違ってるな。それはずっとそこにあったんだよ。確かに形を与えたのは俺だけど、ずっとそこにあった。例えば、クライミングのルートは確かに初登者がネーミングするけど、その岩はずっとそこにあったものだろ? 初登者が誕生させたわけじゃない。掃除をして整理をして、名前をつけることはあっても、それは彼のアートじゃない。そういうことさ」

– GPLの「Don’t say it “Art”」という一文は、そのことを指してるわけですね。

「まあそうだね。正確には、そこときはまだ”Gorge”って名前をつける前で、実際につけたのは後になるんだけどさ」

– それはいつ?

「しばらくそのスタイルでトラックを作ってて、でもこのサウンドに名前を与えることができなかったんだ。まあ、ルートを初登したけど名前付けなかったようなものだね(笑)。
それである日、日付ははっきり覚えていて、2004年の3月1日だ。月曜の夜だったね、クライミング仲間内のパーティのDJでプレイしたんだよ。”何だこれは?”ってザワついて、”このゴルジェの中で弾ける水流みたいなサウンドは何てジャンルだ?”って聞かれたんだ。ピンときたね、これだと。”これがGorgeさ”と答えたんだ。」
(※訳注:”ゴルジュ”は沢登り用語で、急峻にそびえ立った壁に挟まれた沢を言う。日本ではこれと区別するために、音楽ジャンルを指すときは英語で「Gorge」と表記され、発音は「ゴルジェ」と呼ばれている)

– そこでGPLができたわけですね。

「そうだね。”凄い作品だね”って言われたけど、”これはアートじゃないんだ。単なるGorgeだ”って答えてて。その後、自分もGorgeをやってみたいっていうヤツが出てきてさ。凄く嬉しかったんだけど、そこの本質の部分だけは間違って欲しくない、と思ってGorge Public Lisenceとしたわけさ。
でも最初はGPLはもっと厳しくて、「キックを使ってはいけない」「トラックのタイトルにGorgeと付けなければいけない」なんていうのもあったんだけど、やっぱりもっと自由な方がいいな、と思って、今の3カ条を”LGPL(Lesser Gorge Public Lisence)”っていう名前で公開したのさ。結局やっぱりそのLGPLが普及して、いつの間にかGPLになったんだよね(笑)」

– あなたの発言として「”これはGorgeかもしれない”って思った瞬間、それはGorgeになる」というものが有名ですが、これはどんな思想を表してるんですか?

「思想ってほど大袈裟なものじゃないけどさ(笑)。Gorgeに形を与えてから、いろんな音楽を聴いてて、”これGorgeっぽいな”って感じるものがいろいろあって。で改めて思ったんだよね。Gorgeはずっとそこにあったんだ、と。ルーツがどう、とか誰に影響受けて、とかじゃない。そういう犬も食わない批評には興味がない。ただそこにあったし、未来にもあり続ける。それこそ山みたいにね。それがそこにあることに誰かが気付くかどうかなんだ。これはそういう意味さ」

– 世界中で今爆発的にGorgeサウンドが広がりつつありますが、それについては?

「嬉しいよ。最初はクライマー仲間に聞かせてたりしてたんだけど、クライマーは世界中に居るから少しずつ広がっていったみたいだね。アルゼンチン、カナダとかでも面白いGorgeシーンができているし、最近は日本人でやりたいっていって連絡くれた奴もいる。俺はクライミングや音楽と同じくらい旅が好きだから、いつか日本でプレイできるといいね。もちろんクライミングも!」

– あなたはGorgeオリジネーターとしてGorgeシーンでは伝説的存在になっていますが。

「そういうのはまあどうでもいいんだ。何度も言うようだけど、ずっとあったものに俺はたまたま最初に形を与えただけだからね。それが誰であってもおかしくなかったわけだし。それぞれのGorgeがそれぞれの場所と、それぞれの人にある。Enjoy Your Gorge!っていうことさ」

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進化し続けるGorgeシーンは、その特異な音楽性と世界観で新たなリスナーを巻き込みながら激しく鼓動し続けている。果たしてこの音楽は21世紀の音楽の突然変異的な亜種として終わるのか、それとも新たなスタンダードとなるのであろうか。
しかしそんなことは彼らは興味は無いだろう。ただ「それらはそこにあったし、これからもそこにある」と、ぽつりと呟くだけだろう。Enjoy Your Gorge!


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